●エッセイ16
ヴィラ・テピカリ

ヴィラ・テピカリは、チャングーというあまり知られていないリゾートにある小さなヴィラ。高級リゾートとロスメンの良さが同時に味わえるところに、テピカリの良さがある。一言で言えば「バリの楽しみが凝縮している」ということになる。まるで、バリ島の田舎の村に滞在しているかのような、居心地の良さを感じるのは、私だけだろうか。

なぜ知られていないかというと、ほとんど旅行会社に委託していない。それは、できるだけ安い価格で提供するためという。 いつまで続けられるかと、不安そうな顔で話してくれた。

ヴィラと言っても、雑誌で紹介されているようような煌びやかな飾りもなければ、慇懃無礼なサービスもない。そういう一流のサービスをリーズナブルに楽しめるのも、確かにバリ滞在の魅力のひとつだが、それが目的なら、ぜひヌサ・ドゥアやジンバラン、サヌールの高級ホテルをお勧めする。

テピカリの敷地内には、1軒1軒趣の異なる独立したヴィラがありそれぞれにオーナーがいる。フランス人、スペイン人、日本人、バリ人。一人のバリ人を中心に、世界各国の仲間が集まり、ひとつの土地を手に入れ、思い思いのヴィラをたてた。彼らの感性をミックスして、バリ人が運営している。

だからだろう。宿泊客は、国際色豊かである。といっても、満室になることもあまり無いので、ヴィラ自体は静かで心地よい。国際的なホテルなのだが、ツンとすました高飛車な雰囲気ではなく、子供の声も聞こえるし、番犬も走り回っている。清潔に保たれた質の良い部屋と、ゆるやかな時間が流れる、実に居心地の良い田舎の宿という雰囲気なのである。

朝は小鳥のさえずりで目を覚まし、美しい庭を眺めながらの朝食をいただく。太陽がちりちりと肌を焼きはじめる頃、プールサイドに移動する。ゆっくりと長編小説を読み、眠くなったら目を閉じる。遠くからガムランの音を運んできてくれる涼やかな風に吹かれて、いつの間にか夢見心地となる。マッサージを呼んで、バリのマッサージに身をゆだねるのも日課である。

寝苦しい夜もあるが、朝晩は高原のように涼しい。バリの気温に身体が慣れた頃に、部屋のエアコンも止めたままになっていることに気づく。日中は水シャワーのほうが気持ちいいと感じるようになる。一日何回も沐浴するバリ人の気持ちがわかる。

なんと居心地の良いヴィラなんだろう。

テピカリの良さは、スタッフに支えられているところも大きい。ヌサドゥアには村人はいない。開発のとき彼らは追い出された。しかしここには本物の村人がいる。本物のバリの暮らしががあるのだ。おしゃべりだけど、決して出しゃばらず、気さくに話せるフレンドリーなスタッフがいる。フレンドリーといっても、馴れ馴れしすぎる失礼な態度は感じられない。

こちらから話しかければやさしい笑顔で応えてくれるし、冗談を言えば、屈託ない少女の笑顔に戻る。しかし、こちらが話しかけなければ、客のプライベートな時間を大事にしてくれる。その品の良さは、生まれ育ちの良さか、しっかりと教育を受けた賜物か。本当の意味での質の良さを感じる。彼女たちに、こんなことをしたい、あんなことはできないかと尋ねれば、バリで楽しむ方法を見つけてくれようと、まるで家族や親戚のように親身になってくれるのである。

サービスは通常のホテルと同じであるが、リクエストしなければ、いい意味で放っておいてくれる。必要な物はリクエストすれば、できるだけ応えようと一生懸命に対応してくれるし、解決に向けて一緒に考えてくれる。

今日ははこんな物が食べたい。この料理の作り方を教えて。一緒にお茶でも飲みながらおしゃべりしましょ。明日車で観光したいんだけど。マッサージ呼んで。お土産に伝統衣裳作りたいんだけど。ねぇねぇ、ビーチまでバイクに乗せてってよ。たいていは何とかしてくれる。

入り口付近の地べたにしゃがんでいると、バイクで通り過ぎる村人たちも眉をピクリと動かして、はにかむような挨拶をしてくれる。レストランやお店で働いている彼らと知り合うチャンスがあれば、もうその後はハーイと元気に挨拶をしてくれるようになる。

地元の人たちとの交流、それこそバリの楽しみのひとつであると、私は思う。2度3度とバリに訪れる人の多くは、バリダンス、絵画、工芸など、バリのすばらしさに魅了された人たちだが、その人たちは、同時に「誰か」との良い出会いを果たしていることが多い。その付き合いが深く、ディープな体験をしただけ、バリに填ってしまうのだ。

日本人観光客は4泊、5泊の滞在が多いので、そんなディープな体験はなかなかできない。高級ホテルに泊まれば、なおさらである。しかしヴィラ・テピカリに滞在すると、その入り口に、簡単に立てるような気がする。もちろん、長く滞在するほどに、バリ人へと変貌して行くことになる。しかも快適に、安心して暮らせるのがいい。

日本人が大挙してバリに押しかけるようになってから20年年も経ってはいない。しかしヨーロピアンはそれ以前から、バリを楽しんでいた。そして、バリの文化に大きな影響を与え続けた。バリに20年30年と通い続けるリピーターは多く、テピカリにも、長期滞在のオージーやヨーロピアンは多い。テピカリに滞在しながら、子供を学校に通わせているビジネスマンもいる。ビジネスマンと言っても、スーツなどは着ていない。裸で腰にサロンを巻いている姿なので、観光客と見分けはつかないが...。

そんな彼らが楽しんでいるのは、バリのスローライフ。バリの人たちと交流し、自然を愛し、誰もいない密林、土産売りの来ないビーチ、観光地化されていないホテルやヴィラに快適さを求める。その中で、バリの良さを見つけ出すアンテナと、その行動力には見習うべきところが大きい。

日本人は雑誌で紹介された有名リゾート、一流ホテルというところに泊まり、おしゃれなショップに価値を求め、観光の大半を買い物の時間に割く。 日本人は、まだまだヨーロピアンのように本当のバリを楽しんでいるとは言えないけれど、テピカリに滞在すれば、ほんの少し彼らの気持ちを味わうことができるような気がする。そのすばらしさは、1泊、2泊で感じ始める人もいれば、3、4日でようやくわかる人もいる。

無理してヨーロピアンの真似をする必要はないが、バリの楽しさを見つける、ひとつの方法ではあると思う。

ヴィラ・テピカリのH.P.は、コチラ。

※2000年

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