●エッセイ18
最もバリ島らしい雰囲気に包まれる祭日
ガルンガン・2

10月23日はガルンガンの日。天界から降り立つ神々や自然霊、祖先霊を盛大にもてなすバリヒンドゥの重要な祭礼日。日本のお盆のような宗教行事で、家々に飾られるペンジョール、供物を持って行き交う人々、ガムランの音色など、当日までの1週間は一年で最もバリ島らしい雰囲気に包まれます。

ガルンガンは、世の中の善が悪に勝利した日。その話のもとになっているのが「プクリサン川の神話」です。10世紀頃のバリ島で、神に祈る事を民に禁じていた無神論者の暴君マヤデナワ王を成敗するために、神は地上にインドラ神を遣わしました。

神に追われるマヤデナワ王は、毒の泉で追っ手の兵を次々に殺します。しかしインドラ神が聖剣を地面に突き刺すと、そこから泉が湧き出し、その水を飲んだ兵士たちは再び息を吹き返し、ようやく神(善)が王(悪)に勝利したのです。これを記念して神に感謝する日。それがガルンガンの始まりだそうです。

マヤデナワ王の最期に多くの血が流れたとされるプタヌ川。その穢れた水を水田に引こうとする人は誰もいなかったといいます。一方、インドラ神によって湧き出たその泉は、長い間人々の心と身体を浄化し続けてきました。その泉は後に『ティルタ・ウンプル(聖なる水)』と名付けられたそうです。

ガルンガンの日を迎える儀式は一週間前から始まりますが、一般家庭では前日のプナンパハンが準備の日。ふだん離れて暮らす家族も全員顔を揃えます。最初の儀式は夜明け前におこなわれるポトン・バビ≠ニいう豚の屠殺。肉は生け贄として神に捧げられ、その後お祝い料理として人々の口の中に入ります。

豚肉はバリ人にとって何よりのごちそう。お供えやお祝い料理には必ずと言っていいほど豚肉が使われます。肉も皮も内蔵も血液までも。イスラムの国インドネシアでこれほどまでに豚肉を楽しむ民族はごく少数派。それは90%以上がヒンドゥ教徒だから守られてきた、バリ島ならではの食習慣です。

バリ人に人気の豚肉料理は、豚の丸焼きバビグリン、串焼きのサテバビ、腸に肉とスパイスを詰め込んで揚げたウルタン、甘辛く煮たバビケチャップ、スパイスと一緒にバナナの葉で包んで蒸した豚肉のペサン、豚の皮をゆで野菜とココナッツを細かく刻んで和えたラワール...と数え上げればきりがない。

ガルンガンの特別料理と言えば生血入りのラワールメラ。最近では屠殺の機会も減り、このラワールが食べられるのはガルンガンなど特別な祭日だけというバリ人も珍しくはなくなったと言います。しかも新鮮な血でなければ食べられないため、屠殺された日の午前中がギリギリ限界。まさに幻のバリ料理です。

神に捧げた料理はずらり並べられ、ガルンガン翌日のマニスガルンガンの日までの3日間、温め直しながらビュッフェスタイルでいただきます。新鮮なうちに食べきれなかった生血入りラワールメラも、バナナの葉に包んで蒸したトゥム≠ニなって並びます。料理を作り終えれば3日間、炊事から解放されるところは日本のおせち料理に似ています。だからと言ってのんびりしているわけにはいきません。ガルンガン当日は朝からお寺に詣でて儀式に参加し、帰ってくれば家の中を清め、親戚や知人に新婚家庭があれば祝いに行くという風習もあり、なかなかに大変です。

ガルンガン期間中、CLOSEするオフィスやお店が多いので注意は必要ですが、観光客相手のレストランやショップはほとんどが通常営業。それほど困ることはありません。宗教行事の多いバリでは、宗教の異なるスタッフをバランスよく雇って対応しています。

観光客が困るのはタクシー移動。この日移動の予定がある人は、早めに車をチャーターすることをお勧めします。エアポートタクシーはもちろん市中を走るタクシーの姿も少なく、ようやく停まってくれても、メーター利用は拒否。あの評判の良いブルーバード系列のタクシーにでさえ通常の5倍〜10倍もの料金をふっかけられ、料金交渉にも応じてくれません。

ガルンガンの翌日は「マニス・ガルンガン」。家族で景色の良い場所に出かけます。今も昔もブドゥグルやキンタマーニなど気温の涼しい避暑地が人気。一昔前までは家の近くですませていた人も、最近は車を持っているバリ人も多くなり、遠くまで足を伸ばす人が多くなったようです。

ガルンガン10日後の11月2日は、神や先祖の霊を天上界に送り届けるクニンガン=Bちょうど日本の送り盆にあたります。ガルンガン同様前日からお供え物を作り寺院に参拝しますがガルンガンほど盛大ではありません。クタやヌサドゥアにいると、クニンガンに気づかないこともめずらしくはありません。

 


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