●エッセイ10
出稼ぎに来たバリ人の話・2(イミグレーション)

■帰国の決意〜冬は越したけどやっぱり帰りたい。
お母さんが焼いたケーキが効いたのか、茨城に行っての励ましに微力ながら効果があったのか、日本の寒い冬はなんとか越すことができた。しかし家を建てるお金はすでに稼ぎ終えたし、一刻も早く子供に会いたいと、彼は一緒に働いている友人を残してひとり先に帰ると言い出した。彼の息子は4〜5歳のかわいい盛り。逢いたくないはずがない。一緒に働いているもう一人のバリ人は今回2度目の来日であるから、どういう手続きで帰ればよいかは彼から聞いて良くわかっていたが、それを聞いても彼はひとりで帰るには不安であるからと、ボクに東京駅まで迎えに来て欲しいと電話をしてきた。入国管理事務所(イミグレーション)のお世話になるのは、誰だって心細い。日本のイミグレーションはかなり厳しいらしいという話もある。

■帰国までのプロセス〜意外と厳しい。
いよいよ彼が帰国を決めてから数日後、茨城からバスで東京駅にやって来た。途中何かあると面倒なので、できるだけ早く板橋にあるイミグレーションに直行しなければならない。東京見物はそれからである。イミーグレーションに行くということは、つまり出頭するということになる。係官はそれを自首すると行っていた。帰国の手続きをして、何も問題なければ1週間後にはバリに帰れるというのが、おおまかな算段である。自首をするために出頭してきた犯人に、何も問題がなければ...というのもおかしな話ではあるが、実際に不法滞在以外の犯罪を犯していなければ、本人に帰国する意思があり、自費で航空券を購入する能力があるものに関しては、お咎めなく帰っていただくようにしているらしい。帰国許可が下り次第、航空券を買って、その報告など数回ほど顔を出さなければならないものの、帰国日までは自由に観光を楽しめるのである。

■ホテルを探し〜バリ人ひとりでは難しい。
その前にホテルの確保をしなければならない。板橋のイミグレーションに一人で通える場所...しかもボクが面倒を見やすいところということで、新宿界隈のホテルを探した。片っ端から電話を入れたが、なぜかどこも満室状態であった。やっと見つかったところもビザの切れたバリ人では難しい。ただ日本人の身元保証人がいて、料金を先払いをしてくれるのなら...ということで泊まれることになった。それでも税別1泊9000円はきつい。帰国手続きをしてから早くて1週間。問題があれば1ヶ月近くかかる場合もあるらしいので、あまり高いところには泊まることはできない。数日して隣駅の和風旅館に移った。古いが広くて小綺麗な部屋で、ご主人もなかなか感じがよい方で、何より素泊まりで4500円はうれしい。ごはんは食べたいときだけ別料金でリクエストすればよい。彼の食事はほとんど毎日、安くて大好きなラーメンを食べに行っていたが、その旅館に泊まってからは、毎晩食事をお願いするほど気に入っていた。和式のトイレも、バリスタイルに近いので気に入っていたようである。

■入国管理事務所〜不法滞在者でいっぱい。
イミグレーションに日本人が一緒に行くと不法滞在を幇助していると疑われて捕まることもあるから気を付けるようにと言われた。しかし、東京の地理も不案内で電車の乗り方も知らないバリ人をひとりにすることはできなかった。ボクは別に悪いことをしているわけじゃない。日本に連れてきたのはボクではないし、相談されたので連れてきたと正直に話せばいいと腹をくくり、好奇心も手伝って彼と一緒にイミグレーションに行くことにした。正午を少し過ぎたところだったので十条の駅前のマクドナルドでダブルバーガーを食べ、イミグレーションに到着したのは1時少し前だった。

建物の回りは外国人であふれかえっていた。ほとんどが、アジア系外国人だ。中国、パキスタン、マレーシア...ボクには細かいことはわからないが、彼にはどこの国の人かおおよその見当が付くらしい。外国人をかきわけるように建物の中にはいると、こんどは係官らしき人影も見えない。窓口もしっかりと閉められ、カーテンが閉められている。「なんかへんだね。」と言って辺りを見回すと、「本日の受付は終了。明日は7時に出頭すること。」と掲示されていた。7時?てっきり9時-5時のお役所時間かと思っていたが、どうやらシステムが違うらしい。やっと見つけた制服の係官にワケを言って尋ねると、こちらを一瞥してから偉そうな口調で言った。「とにかく7時に来なさい!」あまりの感じ悪さに、思わず胸ぐらを掴みそうになったが、おとなしく出直すしかなかった。

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