●エッセイ10
出稼ぎに来たバリ人の話・3(東京見物)

■ヨドバシカメラ〜奥さんへのお土産は、腕時計。
日本に来たバリ人。いくら稼ぐことだけが目的の旅だとは言え、せっかく日本に来たのだから、つらい思い出しか持って帰らないのではつまらないだろうと、帰国するまでの約1週間、ボクは仕事の合間を縫ってどこか観光に連れていってあげることにした。彼が泊まっていた旅館をボクの仕事場の近くにしておいたので、何かと都合が良かった。ボクが忙しいときは、仕事場に来てテレビを見ていた。
どこに行きたいかと訪ねると、ディズニーランドに行きたいと言った。が、そんな時間もなかったので、暇を見つけては近場を案内することにした。まずは、新宿の街。奥さんにお土産を買いたいという。何を買ってあげたいのかと尋ねると、時計にしようと思うと彼は答えた。ヨドバシカメラと高島屋に連れていった。さすがに高島屋で売られているような時計は高くて手が出せなかったが、ヨドバシカメラは値段的にも気に入ってくれたようで、子供のお土産もそこで買った。近くにあるドラッグストアに安い口紅があることを教えてあげると、奥さんが喜ぶと言って10本ほど買った。そこは以前バリ人へのお土産に買う口紅を見つけたところで、インドネシア人が喜びそうなビビッドな色のピンクがあるのだ。とにかく日本の物価は高い。いくら日本で稼いだと言っても、少しでもお金があれば持って帰りたい。個人差はあるが、1万円と言えば数人の家族が1カ月暮らせる。バリではかなりの大金である。が、日本では大したモノは買えない。そんな中からお土産を買うのだから、選ぶのもおのずと慎重になる。

■東京タワー〜高所恐怖症じゃないけれど、さすがに怖い。
他にどこへ連れていったらよろこんでもらえるか想像もつかなかったので、都内をドライブすることにした。途中で興味を持った場所で降りることにした。午後から仕事が空いたような時に、こまめに出かけることにした。新宿歌舞伎町、四谷の迎賓館...東京の観光地らしきところをいろいろ走り回ったが、どこもそれほどの興味は示さなかった。六本木を通りかかったところで、東京タワーに行くことを思いついた。東京に住んでいると、東京タワーに登ることを忘れてしまいがちだが、彼はなかなか楽しそうだった。確かに椰子の木よりも高い建物を造っては行けないと言う法律があるバリだから、こんなに高い場所に登ったことはないはずである。展望台まで上がると、最初のウチは怖がって、目を塞いでクラクラするというジェスチャーを繰り返していたが、少しして馴れるとガラス窓に貼りついて東京の街を見下ろしながら、何度もすごい、すごいと感激していた。しかし、5分もしないウチに気分が悪いと言いだし、降りることにした。

■浅草雷門〜日本に来た記念に。定番だけど、いちばんおもしろい。
外国人が行く東京の観光地の定番といえばここじゃない?と、女房が浅草行きを思いだした。ヒンドゥ教徒を浅草寺に連れていって何がそんなに楽しいかと思ったが、確かに外国人をみかけるから、嫌いじゃないんだろうなと思い、行くあてもないので雷門を目指してとりあえず行ってみることにした。予想通りというか、予想に反してというか楽しそうにしている。とくに喜んだのは、屋台のお好み焼きと仲店通りの土産げ物屋である。
外国人も多く、安心したらしい。屋台はバリにもあるし、バリ人は屋台が好きだ。レストランにはいるより気楽らしい。生焼けのおいしくないお好み焼きを気に入ってほおばっていた。仲店通りには、笑ってしまうほどの東京土産がひしめいている。東京という漢字の入った扇子やうちわ、掛け軸、ゆかた、千代紙、日本刀、せんべい...なんでもある。じっくり見て回り、ゆかたをペアで買った。さすがに東京という文字は入ってはいなかったが、日本人ならまず買わない柄物である。浅草...彼はそれまで見せなかった楽しそうな笑顔をやっと見せてくれた。

こうして、帰国までの1週間、彼は東京という街を楽しんだかどうかはよくわからないが、無事バリ島へと帰っていった。

▲前のページにもどる


▼次に進む(バイク事故の思い出)

▲エッセイ・メニューに戻る