●エッセイ17
2003年 テロ直後のバリ近況報告

2002年10月12日、バリ島で爆弾テロ事件が発生。バリ島最大の繁華街・クタで、路上に止めてあった自動車で爆弾が爆発し、向かい側のディスコなど多くの建物が吹き飛んで炎上し、日本人観光客2名を含む202名が死亡した事件。世界有数のリゾート張りで発生したテロは、全世界に衝撃を与えました

事件後のバリ島がどうなっているのかを、実際にこの目で確かめるべく、事件から2ヶ月後の年末、バリ島に行ってきました。バリ島に行きたいけれど、大丈夫なの?クタは一体どうなってるの?そんな疑問に少しでもお応えできたらいいなと思っています。

11月某日。あんな事件があってから、バリ島に観光客が減り、飛行機も間引き運転をしていると新聞でも報道されていましたし、インターネットでも、バリ島に観光客がいないなんていう書き込みを読んでいると、僕には「おーい、バリ島が好きなんだろ?早く来てくれよ〜!」なんていう声に聞こえました。

そうだ!この年末年始なら、もしかしたら飛行機だって空いているかもしれない。もしかしたら安く行けるかもしれないな。などと少々不謹慎なことを思いつき、旅行代理店に電話してみることにしたのです。
「あの〜、この年末年始バリに行きたいと思っているんですけど、安いツアーとかチケットってありますか?」すると...
「11月にはうちもお安い料金でご提案したのですが、年末年始は通常通りの料金にもどっていますねぇ。」との答え。
「あっそうですか。(がっくり...)で、JALだと何日くらいまでなら取れますか?」
「そうですね、今からですと27日まで満席です。25日-26日はまだ何席かありますけど、4泊6日から優先していきますからキャンセル待ちです。」

ということで、けっこういつも通りの賑わいじゃないか...と、半分がっかりしながらも、それほど影響がないのでとひと安心。早割悟空がまだ間に合うから、日程を検討してインターネットを使って自分でチケットを取ることにしました。

いろいろ調べてみると、25日過ぎると10万円以上。21日以降だと94,000円。え?19日出発なら67,000円?!!!...どーせ、仕事も暇だしなぁ。あっ、このチケット予約できるのは今日までだ。わ、どーしよう。まだカミさんに相談してないけど、え〜い、行ってまえ!ということで、eチケットで申し込んでしまいました。

 

●機内では...

いよいよ、出発。前回は成田発デンパサール行きのJALが直行便にはなっていたものの、チケットが取れなくて、羽田発、関空経由でバリに行ったので、直行便は十数年ぶり!出発も夕方4時発と、ゆっくりなので、らくちんらくとん。とくに冬の始発の成田エクスプレスに乗るのは厚着しないとしんどかったですからね。うれし〜。今回はユニクロのフリースに、ウインドーブレーカーという軽装でクリアできました。コート持ってバリに行くのは結構つらい。

デンパサール行きJALの搭乗ゲートには早めに行って、ビールでも飲みながらゆっくりすることにしました。すると・・・なんと何年かぶりに友達に会いました。「あれ?メグちゃん?おー懐かしい。元気〜? え?子連れバリ?」 彼女は幼稚園の男の子を連れて渡バリ。やっぱり安いからこの時期にしたみたいです。ご主人は置いてけぼりとか。「向こうで会えたら会おうね」と連絡先を交換しました。彼女たちはウブド。こちらはチャングー。結局会えませんでしたけどね。

それにしても驚いたのは、飛行機の中。ほぼ満席の機内には、なんと子供連れの家族が多いこと多いこと。自分の周りだけで言えば、各列に1組は小さな子供を連れた乗客がいたほどです。大袈裟じゃありませんよ。自分の席から見える前10列くらいと、後5列。トイレに行く時に見たさらに後5列は完全にそうでした。しかも小学生以下赤ちゃんまで。大きい子供の家族連れを入れたら、相当な人数じゃないでしょうか。ついでに言えば、欧米人もたくさん乗っていました。なぜでしょう。

期待していた各座席に着けられているはずのモニター。これがなかったので、がっくりしました。一部搭載されていない機種になることがありますって書いてあったので、「なんだ、はずれかよ!」とひとりツッコミしていましたが、聞くところによると、今は全部違う機種にされてしまっているそうで、3月から復活する予定とのこと。映画やゲームができて、子供の気を紛らわすには最高のおもちゃなんですけどね〜。

●デンパサール空港は...

一人旅でいちばん嫌なのが、税関チェック。子連れの家族はたいてい何のチェックもありませんが、男一人、髭面、初めてのバリじゃない...となると、たいていはスーツケースを隅々までチェックされることになるんです。前回は、バリの友人に頼まれて日本酒を3本持っていったら、ばれちゃって。税金(リベート?)たっぷり取られました。値段に関係なく、1本1000円。「それ、高いんじゃない?」って言ってもだめ。「じゃあ、領収書ちょうだい。」「ない」「・・・」ひどいもんです。バリでの駆け引きに多少慣れた私でも、ディスカウントしてくれる気配がありませんでしたので引き下がりました。払ってもいいですよ。こっちも悪いんだから。でもね、このきちんとしてないところが嫌なんですよねー。たぶん、この係官のポケットにそのまま入ってしまったんでしょうね。

今回はお酒1本! どーぞ、どーぞとカウンターに荷物を載せて、スーツケースのカギを開けようとしたら、「OK」と一言。「え?OKかよ」と、今度は親切に通してくれた税関職員にまでツッコミを入れながら、すんなり通り抜けることができました。バリをあげてのエブリバディ、ウェルカム状態?というところでしょうか。

 

●クタ、サヌール界隈は...

12月20日、バリで最も観光客が多いと言われるクタの街に、翌日早速出かけてみました。まだクリスマス休暇に入っていないせいでしょうか、欧米人や日本人の姿はほとんど見かけませんでした。カフェやレストランは開店休業状態。一部のインターネット情報で伝えられていたような休みのお店は目立ちませんでしたけど、最近できた店舗では、工事が中断されていたり、ショップがまだ入っていない空き家状態というのは確かに目立ちました。古き良きバリを愛する私としてはワイキキのようなおしゃれな店舗を作りすぎという感じもしましたけどね。ビーチももちろん閑散としていました。
サヌールのメイン通りは、もっと人通りが無く、静かでした。もともと静かなサヌールですから、サヌールらしいと言えばそれまでですが、抜けるまでに出逢った欧米人、日本人など、インドネシア人以外の人がわずか15人。それだって、サヌールにお住まいの外国人かもしれませんから、最大でもそんな状況。寂しいものでした。
ウブドに泊まった友人からも、年賀状に「ぜんぜん人がいなかったよー」と書いてあったので、やはり同じような状態だったようです。
さらに、クリスマス、年末とクタ界隈の様子を見ましたが、少しは観光客が増えたものの、これでハイシーズン? 20年前か、その頃よりも外国人が少ないという印象でした。当時のシンガラジャに行った時みたいで、異邦人と言いましょうか、どこか知らないアジアの街にでも迷い込んでしまったような不思議な感覚になりました。でも逆に言えばとてもアジアっぽさが濃くて、そんなに悪い印象ではなかったです。貴重な経験をしました。

 

●観光地は...

今回はバリ全体の様子をみるために、東部バリ、北部バリ、中部バリと、駆け足で回ってみましたが、やはりどこも観光客は少ない状況でした。バングリ、ティルタガンガでは、日本のお客さんにもっと来てもらいたいと切実に訴えられてしまいましたし、アタの籠やグリシン、イカットなどが高くて評判の悪かったトゥンガナンも、意外と安いじゃない、という料金提示。ノーマルな料金交渉ができました。他の観光地では、ほとんどの店がシャッターを降ろしてしまい、わずか2軒のお土産やさんしかやっていないようなところもありました。ティルタウンプルのような地元の人が参拝や沐浴に来るようなところは、比較的変わらない感じでしたし、多くのツアーに組み込まれているキンタマーニのレストランは、クタよりもたくさんの外国人に出逢いました。しかしなぜキンタマーニなのかしらん?

 

●警備、パトロールは...

空港が厳しくなったという印象は、はっきり言ってそれほど感じませんでしたけれど、町中のパトロールは目立ちました。警察はなぜかみんな新しいパトカーです。きっと日本やオーストラリア政府からのお金で買い換えたんだろうと、バリの友人は言っていました。警察もさることながら、今回目についたのは、ホテルやレストランの警備の強化や、地域の自警団によるパトロールです。デンパサールではとくに、各自治会で役割分担をして各家々を周り、レンタルハウスに暮らしている顔の分からない住民をひとりひとり確認していましたし、チャングー界隈でも、各バンジャールごとの自警団が、ホテルやヴィラ、建設現場で働く人たちのIDカードを確認していく作業をしていました。私たち観光客も、とくに長期滞在者はパスポートのコピーの提出を要請されました。何かあったときに、すぐに調べがつくようにしているとのことでした。もちろん、観光客には威圧感を与えないよう配慮していましたから、物々しい雰囲気はありません。いろいろな意味で、バリ島民ひとりひとりが、もうあのような事件が起こらないように気をつけていることを肌で感じました。

 

「バリはもう安全です」。そんなふうに誰もが胸を張って言える日がいつくるかはわかりません。クレイジーなテロリストのことですから、何をどうしたらよいかはわかりません。つねに社会情勢に気を配り、できるだけ多くの情報をキャッチし、一人一人が身を守らなければなりませんが、それを前提にあえて言わせていただければ、バリはそれほど危険な場所ではないと思います。

インドネシアでは他にも、2003年8月に首都ジャカルタで米国系の高級ホテルが爆発して12名が死亡、2004年には市内のオーストラリア大使館が爆発して9名が死亡。そして、2005年10月1日、再びクタのレストランで1人と、ジンバランの海岸レストランで2人が自爆テロを起こし、20名以上が死亡したなど、外国人や外国施設を目標とした爆破テロが続いて発生。これら全てにJIが関与したと考えられています。ちょうど2度目のバリと爆弾テロの起きる数日前、ボクは子供を連れて、このレストランとジンバランのフィッシュマーケットの前を通ったばかりの出来事でした。

2008年11月9日、インドネシア政府は実行犯3名の死刑を執行。以来、バリ島にテロ事件は起こっていません.再び平和な日々が訪れたと信じています。しかし、バリに限らず、テロの脅威はなくなったわけではありません。繁華街とは少し距離を置くなぢ、常に自衛を考えることは当然のことだと思います。

 


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